2020年7月10日金曜日

東大の大学改革に共感

学士会会報に東大の現総長の五神真氏が東大改革の経緯を寄稿していて、大学の中で少なくとも東大は好ましい方向に動いていると感じた。
政府は近年大学への予算を削減し、大学自ら稼ぐことを求めている。国立大学を法人化したり、個別の教授に研究費用を出す科研費を削減し、5年間で20億円と言った大型プロジェクトの予算を増やしている。東大は国立大学の中で最も恵まれた立場にいるが、それでも大学側から見ると安定的資金が不足するために、雇用の維持が難しくなり、若手研究者が時限雇用になって生活の安定が脅かされている。殆どの有名大学教授はこの政府の動きを批判していると私は認識している。
東大は「大学が経営体になる」というビジョンを掲げ、この政府の動きに真正面から取り組んでいるという印象である。そのために数多くに手を打っているが、いくつかを紹介すると
・予算配分を大学の予算審議会で決定する
 従来は個別の教授に政府から直接行っていた予算配分を予算審議会で決定して配分理由を透明化する
・ベンチャー育成を事業にする
 東大自らがベンチャーキャピタルになり、東大初のベンチャー企業を育成、ライセンス料や配当などで稼ぐ
・企業との連携を大規模化
 従来は個々の教授が数百万円規模の受託研究を受けていたのを大企業と億円単位の複数年共同研究にする。
・大学祭の発行
・ソフトバンクとのJVであるBeyond AI研究所設立
などである。他にも多くの項目が列挙されているが私の印象に残ったのは上記のような施策である。これらを通じて最も重要だと思ったのは「大学が経営体になる」というコンセプトを学内で根付かせたことである。当初は抵抗が大きかったが今では違和感なく受け入れられているという。東大は稼げる大学に変身しつつあると感じた。
大学の役割には基礎研究や人材育成といった成果が見えにくい分野が大きなウェイトを占めており「経営」という言葉に抵抗を感じる教授は少なくなかったと思う。東大でも、考古学や、ニュートリノの観測など、何の役に立つか説明の困難な分野の教授がいる。それらの人を説得して、大学全体を動かすには大変なエネルギーが必要だったろうと思う。それを急がず、少しずつ動かして5年間で学内の認識が変わるところまで持ち込んだ五神総長の功績は非常に大きいと思う。次の総長も同じ方向で動けば東大の方向性は揺らぎ無いものになり、他の大学を引っ張っていくだろうと思う。
私にとって一つだけ残念な点がある。それはソフトウェア開発について触れられていない点である。私は21世紀に入ってからの日本の世界における存在感の低下は「日本のソフトウェア開発力が低い」という点が大きなウェイトを占めていると思っている。これは、目の前の問題を解かせることに角に注力している教育のあり方やどういう人を出世させるかという社会構造のあり方が大きく影響を与えていると思っている。五神氏はこの問題に気付いていないのか、気付いていても有効な手を打てないのかは分からないが、いずれにしてもソフトウェアについての言及がないのは残念なことである。

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