2024年1月29日月曜日

囲碁AIの利用経験から感じるAIの特徴

 現在、ChatGPTに触発されて大AIブームが来ている。様々な分野でのAIの利用が人間の業務に多大な影響を与えることは間違いないだろう。AIに対する巨大投資のきっかけは2016年にGoogle傘下の英Deep Mind社が開発した囲碁AIのAlpha Goが人類最強のプロ棋士に勝ったことであることは間違いないだろう。囲碁は将棋やチェスに比べて場合の数が桁違いに多く、コンピュータが人間に勝つのはまだずっと先だろうと言われていた。しかし、Alpha GoはDeep Learningの技術を使って、それを実現してしまった。

Deep MindはAlpha Go(後にAlpaha Go Leeと命名)、に続いてAlpha Go Master、Alpha Go Zeroという改良版を出している。Alpha Go Leeは過去のプロ棋士の対局の棋譜を学習させて、当時の世界トップのLeeに勝った。続いてAlpha Go Masterでアルゴリズムの改良を行い、日本のトップよりレベルが上の中国のトップ棋士に100連勝した。ちなみに人間ではどんなに強い人でも年間勝率80%程度である(年間60-70局程度)。更にAlpha Go Zeroでは一切人間の棋譜を参考にせず、AIにルールだけ教えてAI同士の対局をさせ、初心者から初めて、学習を積み重ねてAlpha Go Masterを超えるレベルに到達した。これでDeep Mind社は「もはや人間と対局させる意味はなくなった」として、一般人への公開も取りやめ、現在では対局することはできない。

しかし、Deep Mindに触発されて複数の組織が囲碁AIを開発して、無料でダウンロードして使えるようになっている。これらの囲碁AIも人間のトップ棋士よりも強い。私を含めて多くの囲碁ファンはGPU入りのPCを買って囲碁AIをダウンロードして使っている。前置きが長くなったが、以下に囲碁AIの利用経験から感じたAIの特徴を整理する。

〇AIは間違える
これまで「コンピュータはできることは限られているが間違えることはない」と思われていたが、AIは間違える。AIは決まったプログラムを実行しているのではなく、アルゴリズム自体を学習で変えているのでその中に間違いが含まれるのは当然である。これは全てのAIに言えることだろう。但し、人間より間違える頻度は低いので人間よりも囲碁は強い。

〇AIには創造性がある
一般には「AIには創造性がない」という人が多いが、私は創造性があると思っている。その証拠に囲碁の定石はAIが出現して大きく変化した。今までは「良くない」と思われていた打ち方が実は良い方法であると知って、プロ棋士の打ち方が変わった例は多い。新しい打ち方がAIによって創造されている。「それは囲碁という限られた世界だからだ」という人がいるかもしれない。しかし、音楽の作曲は音の組み合わせから心に響く組み合わせを求める作業であり、私はAIで作曲は十分にできると思っている。

〇AIの優れた点は判断力
AIといえども最後まで読み切って判断を下しているわけではなく、例えば20手先まで読んで最も有利になる手を現時点での最善手として決定している。つまり20手先の局面で「どちらが有利か」という判断が極めて重要である。この判断力でAIは極めて優れており、プロ棋士もほとんどAIの判断を参考にしている。最善の結果に至るにはどのような手の組み合わせが良いかは「読み」と言われる。「読み」では必ずしもAIが人間に勝っているとは言えない。例えば「取るか取られるか」という大変な戦いの最中で、20手先でもまだ結論が出ていないような場合、AIはあいまいな判断をするが、人間は30手先でも結論が出るまで読んで結論を出す。複雑な読みが必要な局面ではトッププロがAIに勝ることは少なくない。コンピュータというと読みが優れたものと考えがちだが、Deep Learningによって人間よりも正確に、優劣を判断できるようになった点が、AIが人間より強くなった最大のポイントだと思う。

以上のように、AIの特徴は従来のコンピュータからイメージするものとはかなり違っている。この点をきちんと押さえることが今後のAI利用で重要になると思う。