2020年7月29日水曜日

歌手、弘田三枝子の訃報に接して

歌手の弘田三枝子が突然亡くなったと報じられている。心不全だそうである。私の医師の友人が「心不全というのは、心臓が止まったということしか意味しておらず、なぜ止まったかは示していない。死因を心不全と発表するのはやめたほうが良いと、私は色々な人に言っている」と語っていたことを思い出す。弘田三枝子も数日前までは元気だったそうなので、何かすっきりしない感じを受けている。
弘田三枝子は私の好きな歌手だった。特にVacationに代表される「パンチのミコちゃん」と呼ばれていた初期の歌い方が好きだった。その後、しばらく見かけないと思ったら「人形の家」のヒットを飛ばし、別人のようにきれいになっていた。皆、美容整形だと言っていたがダイエットもかなりしたようである。歌い方も随分しっとりしたものになっていた。
弘田三枝子はそれほどヒット曲を出した訳では無いが、ジャズ歌手としては有名だった。ジャズ歌手はオリジナル曲を出すというよりも、スタンダード曲を独自のアレンジで歌う歌い方に真髄があるので、オリジナルのヒット曲が少ないのは不思議ではない。若い頃、私はジャズが好きで雑誌なども時々読んでいたが、ある高名なジャズ評論家が「弘田三枝子が日本人で一番歌がうまい」と言っていたのが印象に残っている。
私自身、そこまで彼女が好きな訳では無く、コンサートに行ったりCDを買ったりした訳では無いが、テレビに弘田三枝子が出ているとよく見ていた。彼女の出る番組は「ベストテン」のような、一人1曲歌う番組ではなく「ミュージックフェア」のような少ない歌手の歌をじっくり聞かせる番組だったので、好んで見ていた。その時に印象的だったのは、聴いていて彼女の歌にそれほど感動する訳では無いものの、「他の人と比較するとはるかにうまい」と感じた点である。その一例として尾崎紀世彦と共演した時のことを思い出す。尾崎紀世彦はかなり歌のうまい実力派歌手だと今でも思っているが、弘田三枝子の後で歌うとリズム感が無くのっぺりした歌い方に感じた。他の実力派歌手に対しても同じような印象である。
最近はテレビの歌番組が減って、オリジナル曲ではなく、カバー曲をじっくり聞かせるような歌謡番組は少ないのだが、もっと歌唱力を強調するような番組作りが増えてほしいと思っている。

2020年7月22日水曜日

政界再編は自治体連合で

秋に解散総選挙が行われるのではないか、と囁かれている。コロナ問題は収まりそうにないうえにオリンピックを中止するかどうかの判断も必要になる、米国の大統領選挙もある、という大きな問題が起こる前に選挙をしようと与党側が考えても不思議はないと思う。
最近のCOVID-19に対する一貫性のない思い付き対応で国民は政府に対する評価を下げている。本来なら野党にとってチャンスのはずだが、野党側が盛り上がる気配は全くない。それは野党がCOVID-19に対する対応案を示すことなく、「桜を見る会」に対する批判とか、政府の対応に対する批判ばかりで、「自分たちならどうするか」という見識の発表が全くないからである。立憲民主党と国民民主党の統合が言われているが、たとえ統合したとしても、選挙を行なえば2党合わせて現在の立憲民主党程度の議席数になるのではないかと想像している。政策を示さず「国会議員になりたい」だけが行動原理の政党が盛り上がるはずはないと思う。民主党が分裂したときに、野田佳彦、岡田克也、前原誠司といった民主党代表経験者の大物がどちらにも属さず無所属になっている。これらの人を吸収できるような政党でないと日本全体の中で存在感を示すことはできないと思っている。
その上で私が期待している政界再編がある。それは「自治体連合」が新しい政党を作り大阪の吉村知事辺りをトップに据えて「地方自治強化」を論点に国政レベルで争うという点である。COVID-19対応では自治体のほうが政府よりも真剣に取り組んでいることは国民の眼にも明らかである。「維新の会」がバックに付くことが想定されるが、維新の下に全国の自治体が集まるというより、自治体連合の政党ができて維新がその中に吸収されるという形のほうが印象としては良いと思う。これなら、民主党の代表経験者も合流できるのではないかと思う。
維新の会の政策は基本的には自民党と同じで反発もあるだろうが、「地方に財源を移す」という提言は大きな国政レベルの争点になりえると思う。政府のGo Toキャンペーンが失敗することは目に見えているので、秋の選挙があるとすればそろそろアドバルーンを上げても良い時期だと思う。

2020年7月19日日曜日

COVID-19本格的蔓延に備えよ

COVID-19の感染者は着実に増加している。私は7月7日のブログで書いたように16,17日あたりで東京の1日当たりの新規感染者は400人に達すると思っていたが、300人弱なので思ったより少なかったという印象である。これはホストクラブの検査などの増加ペースが鈍っており、一般感染だけが伸びたからだろうと想像している。小池知事が言うように、現在の東京の290人は、4月中旬の150人くらいに相当する状況だろう。
しかし4月には宣告に非常事態宣言が出ていたのに対し、現在はGo Toキャンペーンを打つような状況である。今週後半には東京で500人に達するだろうと思っている。神奈川、埼玉、大阪などでも増えており、全国では7月末辺りには1日1000人を超えるだろうと思っている。最近テレビであまり言われないが、手を打ったとしても効果が出るのは2週間後で、それまでは、現在の状況(感染者数が増え続けるという状況)が続く。最近の政府のGo Toキャンペーン対応などを見ているとそのことを理解していないのではないかと思えてくる。
感染拡大に対する備えは殆どできていない。個々の店舗などではある程度ノウハウが蓄積されているが、国全体ではほとんど動いていない状況である。前にも書いたが、政治家が医療の素人であることは仕方がない。問題は厚労省が感染拡大を防ぐための手を殆ど打っていない点にある。8月に入ると患者数が増加してPCR検査を受けたくても受けられない人が出てくる、という状況になり、更に病院のベッド数も逼迫してくる。自宅待機が増えて家庭内感染が増加する、という状況になるだろう。政府は4月に全国の学校を休校にして、全国民に行動自粛依頼を出した。これは大きな経済的マイナスを生み、生活困窮者が急増するという副作用を生んだ。代わりに3か月の感染拡大抑制という時間を稼いだのだが、この期間に厚労省が対応策を打たなかったために、これ以上経済を止められない、というマイナス面だけが残ったという状況になっている。
全般的にアジア各国はCOVID-19対応に成功している中で日本はインドに続いて本格拡大する国になるのではないかと思っている。政治家にも官僚にも期待できないとなると、民間で自衛するしかない。そのためには政府に対してもっと細かい情報開示を行うように圧力をかけることが重要だと思っている。個人レベルで「どこが危ないか」を判断できるだけの情報があればある程度対応できるだろう。しかし、私は日本が遠からずイタリアのような状況になるのではないか、と思っている。

2020年7月17日金曜日

日本の国際競争力の下げが止まらない

良い国とは何だろうか? 治安、文化、軍事力、経済など様々な指標があるが、私は経済が最も重要だと考えている。それも、絶対的な経済の豊かさよりも、「年々良くなってきているか?」という時間的な変化が重要だと思っている。「将来、国の経済が良くなるか?」を示す重要な指標が国際競争力ランキングだと思っている。
スイスのビジネススクールIMDが毎年発表している国際競争力ランキングで日本は2020年、34位になったと発表された。日本の国際競争力は年々下がってきており、今年もまた下がった。コロナ問題で世界的に産業のデジタル化が進行しており、それに出遅れた日本の競争力低下が加速したと私は認識している。
図1 IMD「世界競争力年鑑」日本の総合順位の推移
三菱総研まとめ
上の図は日本のランキングの推移であるが、日本の凋落は顕著である。
2020年は1位シンガポール、2位デンマーク、3位スイスである。これは規模ではなく効率を評価しているからだと考えられる。ちなみにGDPの大きな国では米国10位、中国20位、ドイツ17位、英国19位、インド43位である。インド以外は日本より上である。最近の傾向では米国の凋落が大きい。2017年1位、2018年2位、2019年3位、2020年10位である。

【国際】IMD世界競争力ランキング2020、首位シンガポール。日本は34位で凋落止まらず 2

上の図が2020年の日本の分野別順位であるが、政府の効率とビジネス効率が特に低いことが分かる。技術面で言うと、科学インフラは比較的強いが技術インフラは弱く、教育も弱い。科学は過去の強みがまだ残っているが、これから下がってくるだろうと思う。IMDの分析がどれほど実際と整合しているかは不明だが、私自身の直感ではそれほど外れていない感じがしている。
インドのように現在貧しい国は国際競争力が低くても国民の生活が現在より「まし」になることは期待できるが、日本のように現在豊かな国では、将来は現在より生活レベルが下がることは確実だろう。現状、これを挽回すべく動いている政府の取り組みは感じられない。個人レベルでできることは身近な若者を国内に閉じずに世界で活動させることしか無いように感じている。

2020年7月14日火曜日

Googleのインドへの1兆円投資に注目

GoogleのCEO、Sundar Pichai氏がインドのモディ首相と電話会談して、今後5-7年間でインドに約1兆円の投資をして、インドのインターネット環境の向上に貢献すると語ったことが大きく報じられている。これがどれほど成功するかは未知数であるが、成功すれば世界経済に大きな影響を与えるだろうと私は考えている。
その理由はインドのポテンシャル、特にソフトウェア系のポテンシャルに私は極めて高いものを感じているからである。現在世界を牽引している大企業GAFA+Mのうち、GoogleとMicrosoftのCEOはインド生まれ、インド育ちでアメリカの大学で学位を取ってGoogleやMicrosoftに就職した人物である。以下二人の経歴を簡単に紹介する。
Sundar Pichai(スンダ―・ピチャイ)は1972年にインドのチェンナイで生まれ、インド工科大学卒業後、奨学金でスタンフォード大学に入学している。中途退学してApplied Materialに入社し、ウォートン校でMBA取得の後、マッキンゼーに入社して、2004年にGoogleに入社している。Googleでブラウザの Google Chrome、次いでChrome OSの開発を成功させ、2015年に持ち株会社Alphabetの設立に伴い、創業者のLarry PageからGoogle CEOを引き継いでいる。2019年にはLarry PageからAlphabetのCEOも引き継いで、現在は名実ともにGoogleのCEOとなっている。インドの内情、インド人気質を良く知っているSundar Pichaiがインドへの巨額投資を決定したことで、成功の可能性は高いと思っている。
MicrosoftのCEO、
Satya Nadellaは1967年インドのハイデラバードで生まれ、インドのマンガロール大学卒業後、ウィスコンシン大学に入学後、サン・マイクロシステムズを経て1992年にMicrosoftに入社、2014年、MicrosoftのCEOに就任している。
全産業を通じて世界を代表する企業であるGoogleとMicrosoftでインド生まれ、インド育ちの二人がトップに立つ、それもSatya Nadellaは入社22年、Sundar Pichaiは入社11年でCEOに着任するということにはアメリカ企業の懐の深さを感じている。トランプ大統領はこのような状況を阻止しようとしており、彼が11月の大統領選挙で勝つようならアメリカの国力は大幅に下がるだろうと思っている。
それはさておき、ここで注目したいのはインド人二人の能力の高さである。いわゆる学力で言えばSundar Pichaiのほうがかなり上のようだが、Satya Nadellaは落ち目だったMicrosoftを立て直したという大きな業績を上げている。インド育ちでありながらアメリカ社会に溶け込んで周囲からも信頼される人物になっている。CEOになるというのは並みの信用とは次元の違う信頼を得ているのだと私は思っている。
インドの人口が13億人を超えていること、インドはソフトウェアに強いバックグラウンドを持つこと、産業全体の中でソフトウェアの付加価値が今後一層高まっていくことを考えると、インドが日本よりもはるかに重要な国として注目を集める日はいずれ来ると考えられる。
今回のGoogleの動きはそのための極めて有効な布石になる気がしている。

2020年7月10日金曜日

東大の大学改革に共感

学士会会報に東大の現総長の五神真氏が東大改革の経緯を寄稿していて、大学の中で少なくとも東大は好ましい方向に動いていると感じた。
政府は近年大学への予算を削減し、大学自ら稼ぐことを求めている。国立大学を法人化したり、個別の教授に研究費用を出す科研費を削減し、5年間で20億円と言った大型プロジェクトの予算を増やしている。東大は国立大学の中で最も恵まれた立場にいるが、それでも大学側から見ると安定的資金が不足するために、雇用の維持が難しくなり、若手研究者が時限雇用になって生活の安定が脅かされている。殆どの有名大学教授はこの政府の動きを批判していると私は認識している。
東大は「大学が経営体になる」というビジョンを掲げ、この政府の動きに真正面から取り組んでいるという印象である。そのために数多くに手を打っているが、いくつかを紹介すると
・予算配分を大学の予算審議会で決定する
 従来は個別の教授に政府から直接行っていた予算配分を予算審議会で決定して配分理由を透明化する
・ベンチャー育成を事業にする
 東大自らがベンチャーキャピタルになり、東大初のベンチャー企業を育成、ライセンス料や配当などで稼ぐ
・企業との連携を大規模化
 従来は個々の教授が数百万円規模の受託研究を受けていたのを大企業と億円単位の複数年共同研究にする。
・大学祭の発行
・ソフトバンクとのJVであるBeyond AI研究所設立
などである。他にも多くの項目が列挙されているが私の印象に残ったのは上記のような施策である。これらを通じて最も重要だと思ったのは「大学が経営体になる」というコンセプトを学内で根付かせたことである。当初は抵抗が大きかったが今では違和感なく受け入れられているという。東大は稼げる大学に変身しつつあると感じた。
大学の役割には基礎研究や人材育成といった成果が見えにくい分野が大きなウェイトを占めており「経営」という言葉に抵抗を感じる教授は少なくなかったと思う。東大でも、考古学や、ニュートリノの観測など、何の役に立つか説明の困難な分野の教授がいる。それらの人を説得して、大学全体を動かすには大変なエネルギーが必要だったろうと思う。それを急がず、少しずつ動かして5年間で学内の認識が変わるところまで持ち込んだ五神総長の功績は非常に大きいと思う。次の総長も同じ方向で動けば東大の方向性は揺らぎ無いものになり、他の大学を引っ張っていくだろうと思う。
私にとって一つだけ残念な点がある。それはソフトウェア開発について触れられていない点である。私は21世紀に入ってからの日本の世界における存在感の低下は「日本のソフトウェア開発力が低い」という点が大きなウェイトを占めていると思っている。これは、目の前の問題を解かせることに角に注力している教育のあり方やどういう人を出世させるかという社会構造のあり方が大きく影響を与えていると思っている。五神氏はこの問題に気付いていないのか、気付いていても有効な手を打てないのかは分からないが、いずれにしてもソフトウェアについての言及がないのは残念なことである。

2020年7月7日火曜日

次のCOVID-19対策はどうなるか?

世の中は自粛解除で、マスコミも「感染が増えている」と報じながら同時に「経済活動が再開している」と自粛解除を歓迎する報道を続けている。しかし、新規感染者数は日を追うごとに増えている。私は東京都で今週中に1日200人、来週には1日400人とこれまでで最高レベルに達すると思っている。政府は来週中には何らかの対策を打ち出さざるを得なくなると思っている。これに関して、どうするべきか、私の考えを整理してみたい。
4月5日に書いたように、感染拡大対策の最悪は何もしないことで、最善は感染者全員を突き止めて隔離することである。4月に政府が打った対策は国民全員に行動制限を求めるもので、これは誰が感染者か全くわからない、という前提に立つもので、有効ではあるが、コスト(経済的ダメージ)は最も大きい、下から2番目の対策と言えるだろう。それでもアメリカやブラジルのように政府トップが「対策は必要ない」というよりはましだと思う。
現在、政府や東京都が対策を打ち出すことをためらっているのは過去の対策があまりにも高コストだったからだろう。小池知事が語っているように「全員ではなくリスクの高いところに重点的に対策を打つ」ことを考えていると思う。4月の時には小池知事が動いて政府の対応を促した印象だったが、その時にいろいろと干渉されたので、今回は政府側の動きを待っているように感じている。しかし、政府が動かない一方で東京都の新規感染者はどんどん増えるので、結局東京都が動かざるを得ない状況になると思う。
問題は厚労省の抵抗で検査能力の拡大に対してほとんど手が打たれていない点である。これは東京都の責任ではなく政府の責任なのだが、これだけ「検査能力を拡大すべき」という声が強いにもかかわらず今でも厚労省内に拡大に対する抵抗勢力がいるように感じている。
私の印象では、東京都の感染者数が1日400人になったからと言って急に検査数を増やすことはできず、マスコミは政府を批判するだろうが検査できないことはどうしようもないので再び「国民に行動自粛を求める」しか手がないだろうと思う。そこで緩いやり方だと感染は止められず制御不能になる可能性が高いと思っている。有効な方法はクラスターが発生した組織に食中毒の時と同様に組織名を公表し、2週間活動停止にすることだと思うがあたしてそれができるのかどうかは分からない。法的にできないような気がする。
個人のレベルで言うと自衛するしかない。会社がリモートワークを認めてくれればよいが通勤しなくてはいけない場合には通勤中に最大限の注意を払うべきだろう。この夏の日本に私は大きな危惧を感じている。

2020年7月6日月曜日

藤井聡太の強さは想像以上

最年少で将棋のタイトル戦に挑戦している藤井聡太七段の強さに目を見張る思いでいる。かなり前から最年少挑戦者の期待が高まっていたのだが、コロナ禍でプロの対局が全面中止となり、最年少挑戦は無理かと言われ始めた。日本将棋連盟は緊急事態宣言が解けるとさっそく藤井七段の挑戦の可能性がある棋聖戦の対局を組み、「勝てば最年少挑戦者」となれるように日程を組んだ。但し、相手はタイトル保持者の永瀬2冠、容易ではないと思われたが藤井七段は見事に勝って挑戦権を獲得した。相手は現在最強と言われる渡辺3冠である。現在挑戦手合いが進行中であるがその間に藤井七段は王位戦への挑戦も決め、現在ダブルタイトル戦を戦っている。
実はここまでは私にとっては想定の範囲内だった。勢いのある藤井七段が挑戦者になるとこはかなりの確率であると思っていた。私にとっての驚きはタイトル戦の内容である。棋聖戦の第2局で、渡辺3冠に勝って2連勝となったのだが、私はこの対局の棋譜を仕事をしながら見ていた。動画の中継では無く、指し手で記者が将棋の盤面を動かすインターネット中継である。プロのタイトル戦はNHK杯などと違って時間がたっぷりあるのでなかなか進行しない。仕事をしながら、「パチリ」と指した音がすると将棋の画面を開く、という見方である。その中で58手目の「3一銀打ち」という手が驚きだった。
私は囲碁には自信があるが将棋はそれほど強くないので「どちらが優勢か」などはほとんどわからない。しかし、インターネット中継では、別室で多くのプロが集まって検討している状況を記者が教えてくれるので大体の状況が掴める。この「3一銀打ち」が指された時、この手を検討していたプロは誰もおらず、その手が指された時には「そんなところに行ったの」という反応だったようである。しかし、しばらくして局面が進んでみると「あの手は素晴らしい手だったようだ」という評価に代わっていった。翌日にはアマチュアの強豪がAIにかけたところ、5億手まで読む設定では「3一銀打ち」を発見できず別の手を最善手としていたのだが、6億手まで読みを深めると「3一銀打ち」を最善手として発見したそうである。
このことは、藤井聡太が既にプロ将棋界の第一任者になっていることを表しているように思われる。過去の羽生善治永世名人などでも初めて挑戦したときには、トップ棋士に並んで勝ったり負けたりする状態だったのが、2年くらいの内に抜け出してめったに負けないという状態になっていったのだが、藤井聡太は昨年既にトップと並ぶ実力があり、今は既にトッププロの中でも頭一つ抜け出した実力を持っているように感じられる。
囲碁の世界では20歳の芝野名人が昨年の秋に初めて挑戦手合いに登場してから3つのタイトル戦に立て続けに勝利して、3冠になっている。しかし、棋譜を見る限り、芝野名人が頭一つ抜け出している感じはせず、勝負強さで勝っている感じがしている。藤井聡太の強さはそれを上回る大変なものだという感じがしている。