2020年5月23日土曜日

黒川氏問題だけではない、公務員の定年延長は疑問

政府は黒川検事長の定年延長を目指して、ごり押ししようとしていた「国家公務員法改正案」を取り下げた。主な理由は、政府は否定しているが、黒川検事長が賭けマージャンをしていたことが暴露されて、黒川氏を検事総長に押す芽が無くなったことだろう。
昨日、安倍総理は「公務員の定年延長自体を見直す」と発言したと報じられており、これがまた大きな問題となっている。野党は、政府が3月に黒川氏の定年を「政府の法解釈」を変えて伸ばしたことを問題視しており、その法解釈を正当化しようとする定年延長法案にも反対していたのだが、公務員全体の定年延長には賛成だった。野党は公務員組合が票田となっているので当然だろう。
一方、安倍総理は国会で「優秀な公務員が職に留まれるようにすることは大切」と答弁していたにも拘らず、黒川氏が辞任すると「法案自体を見直す」と言い始めた。これが安倍総理の本音だと考えられ、政府がこの法案を推進しようとしたのは黒川氏を検事総長にすることが目的だったことを暴露したようなものである。
ところで、私は「公務員の定年延長」自体に疑問を持っており、この点では野党よりも安倍総理の本音に近い考えである。この法案は政府が年金支給を段階的に65歳まで遅らせることをすでに決定しており、公務員がそれより早く定年を迎えると無収入の期間が生じることを防ぐためのもので、何らかの対策が必要なことは私も認めている。しかし、実施には大きな検討課題がある。
民間では60歳を過ぎると定年に達した職員に対する給与は大幅に減少する。もちろん一部の極めて優秀な人は別だが、一般社員は半額程度になる。企業によっては3割程度まで減少するところもある。つまり企業によって扱いは大きく異なるうえに、個人に対しての扱いも個人に対する評価で大きく異なる。公務員は民間よりもはるかに年功序列の性格が強く、人事評価の仕組みを見直さない限り、人件費の増加が避けられない上に、官僚の政策の硬直化がますます進んでしまうだろう。
この問題は、定年延長と同時に考えることが不可欠、と指摘されているのだが、具体的にどうするかは簡単に答えが出るとは思えず、数年の検討期間が必要だろう。私は公務員の人事評価の新しい枠組みが出来上がるまでは、定年延長はせず、公務員に対しては早めに年金支給を開始し、早く年金支給を開始する人に対しては年金額を減少させる(70歳まで年金を受け取らなければ月額が増えるのと同じような仕組み)が良いと思っている。
公務員、特に上級公務員に対しては政治家に一部の人事権があるので、人事に対する評価の裁量の幅を広げることは政治家の官僚に対する介入を強めるリスクもあり、公務員の人事評価は極めて難しい問題だと思っている。