2022年11月12日土曜日

国産半導体会社ラピダスが成功するとは思えない

 半導体産業の技術覇権を取り戻すためにトヨタやNTTが中心となってラピダスという会社を作ることが大きく報じられている。うわべだけを取り繕う西村大臣の好きそうな動きだと思う。前記2社に加えて、ソニー、NEC、ソフトバンク、デンソー、キオクシア、三菱UFJが加わるという。私にはこの会社が成功するとはとても思えない。

現在、世界の半導体業界は設計と製造が分離されている。設計に特化しているのはアメリカのQualcomm、Apple、NVIDIA、AMDなどで製造に特化しているのはTSMC、Global Foundriesなどである。Intelは自社で設計、製造の両方をやっているが、製造技術で台湾のTSMCに後れを取っているので、設計に特化して製造はTSMCに任せているAMDにシェアを奪われ経営が悪化している。韓国のSamsungも両方やっているがやはりTSMCには敵わない。

このような状況になっているのは微細化が進んで最先端の半導体を作るのが非常にむつかしく、工場を新設するのに1兆円以上の投資が必要になるための、大量の受注を見込める企業しか最先端半導体の製造工場を作れなくなっているからである。

このような状況でラピダスはどんな事業を狙うのだろうか? 日経の記事によると設計、製造の両方を狙うように読めるが、それはほぼ不可能に思える。記事はどちらかというと製造に力点を置いているように見えるので、まず製造の観点で見てみよう。

最先端の半導体製造工場を作ることは非常にむつかしい。最近、TSMCの工場を熊本に誘致する話が進んでいるが、それは12/16nmという3世代前くらいの古いプロセスで、それができたからと言って、最先端の工場を作れるようにはならない。仮に2nmの最先端半導体を作る技術ができたとして、それを果たしてAppleやQualcommから製造受注できるだろうか? 実績のないラピダスが既に実質的に独占の状況にあるTSMCに受注合戦で勝つのは極めて難しい。現にSamsungでも非常に苦労している。

設計のほうはもっと難しい。最先端の工場で作るのは高価格で大量に出荷されるCPUや無線チップであるが、それらの設計を行う技術はすでに日本にはない。少なくとも10年は無理だと思う。要するに1兆円かけて投資した工場で回収できる見込みは立たないといってよい。

最大の問題である工場の採算をどう考えるか、メンバー企業にシナリオを作れそうなところはないと思う。

その一方で、政府がそれを求めるのは理解できる。それは現在世界で独占的立場にあるTSMCが政治的に微妙である台湾の企業だからである。中国の台湾進攻を懸念する米国政府も同じ思いだろう。そうであるならば、米国政府と協力して日米合同のチームを作ってAppleやQualcommも巻き込んだプロジェクトにするべきだろう。それならば製造工場ができれば活用できるシナリオは描ける。しかし、現在の日本の政治家にこのようなシナリオを描いて実行に移せそうな人は居ないと私は感じている。