2023年6月5日月曜日

楡周平の「和僑」を読んだ

 最近、楡周平の小説「和僑」を読んだ。この小説はヒット作となった「プライムタウン」の続編で、「プライムタウン」で大手商社から出身した街の町長に転じて町興しを行った主人公が、将来の人口減少時代に備えて、農業法人を設立して農業の輸出産業化をもくろむといったストーリーの経済小説である。

舞台が地方の町で高齢者が多く、その中で大手企業出身で自身も定年世代になっている主人公の発想は、自分の老後はある程度資産のめどが立っているものの日本社会の高齢化、活力低下に対する問題意識持っている。様々な友人や仲間、反発する人との会話は自分にとっても「あるある」の心情が多く、共感する部分がかなりあった。私は農業に対する知識は無いが、現在の農業従事者の意識はこんな感じか、と感じられた。少し問題や対策を単純化しすぎていると感じた部分はあったが、小説なので面白ければよい。私にとっては十分に面白かった。

日本の経済小説は、これまで鉄鋼、銀行、商社など時代の花形企業の内幕を描くような内容が中心だったが、この作品は、それとは違って、「現在はそれほど注目されていないが伸びしろの大きな産業」に着目している点が新鮮だと感じる。

2015年に発行された本なのでまだ政府の農業法人を後押しする政策はまだ出てこないが、この人が今またこのようなテーマで小説を書けば現在の政策との関連が出てきて、またそれは面白いだろうと思う。この作者の本をまた読んでみようと思う。