2025年6月3日火曜日

日本経済の凋落が止まらない (6)日本のイノベーション力を底上げできるか?

 今回は前回の「2.日本がイノベーションに強くなる」について考えてみる。

結論を先に言うと日本のイノベーション強化は非常に難しいと思う。私は現在の日本のイノベーション力は弱いと思っているが、20年ほどかけてイノベーション力で弱くない、つまり普通の国になれば成功だというくらいに思っている。その理由は日本社会の至る所にイノベーション(変化)を嫌う文化が根付いていると思うからである。

以前も書いたが、日本の刑事ドラマなどで地域再開発がテーマになるとほぼ必ず再開発派が金儲けをしようとする悪い人で、反対派が貧しいが善良な人たちということになっている。料理がテーマの場合には新しい味を求める人が悪者で、昔ながらの味を守る人が善人ということになっている。「従来のやりかたを変えるのは悪いこと」という刷り込みがなされている。

明治以来、日本政府は「欧米に追い付け、追い越せ」を合言葉に、知識と理解力があって、協調性が高く、上司の命令に忠実な人材育成を行う教育体系を整備した。結果として優秀なブルーカラーが大量に育成され、日本が工業大国になることに大きく貢献した。しかし、イノベーションが重要となるとこの方針がマイナスに作用する面がある。イノベーションは現在のやり方に疑問を持つところから始まる。現在の教育はこの疑問を抑圧する傾向があると思う。最近の教育現場では知識だけでは不十分で思考力を養わないといって、動いている。良い方向に動いていると思うが、「学校の今のやり方に疑問を持ち、それを発現する」といったことを奨励するべきだと思う。

政府では毎日何十という検討会議が行われている。各会議は多くてもひと月に1回だから検討会の数は千を超えるだろう。利害関係者と学識経験者を集めて、どうすればよいかを議論する場だが、多くの場合シナリオは事務局である官僚と業界の有力者とで決められており、本質的な議論にはならない。無理なくシナリオ通りに結論を導く官僚が優秀とされる。官僚が業界と結びついているのはお互いにメリットが大きいからである。ライドシェアの日本導入に関する議論などはその典型である。イノベーションはベンチャー企業によって提案されることが多い。ベンチャー企業が事業を拡大しようとするとこのような政府の体制によって阻まれることが多い。

現在の日本の文化や習慣は殆どが江戸時代に確立されている。そして、徳川政府が日本にイノベーションを嫌う文化を根付かせたのだと私は考えている。徳川家康が天下を取った時にその権力基盤はまだ盤石なものではなかった。自分の権力基盤を盤石なものとするために様々な手を打った。基本的には上司に逆らわないように国民をマインドコントロールする方針だと私は考える。決まりに関してはその正当性を疑わず、従うことが重要である、内部の争いを避けるため長男よりも次男のほうが優秀でも長男を跡継ぎにして、皆で長男を盛り立てるべし、等がその典型である。

明治維新を起こした立役者は多くがこの徳川政府の考えに疑問を持った人たちだろうと想像している。しかし明治政府はこの徳川文化を温存した。自分が権力者の立場に立つと、反発するものを抑えるような文化が好ましいと考えたのだろうと私は想像している。ちなみに、江戸文化は日本人の本来的なものでは無いと私は考えている。少なくとも戦国時代は変化を起こして成功することが高く評価されていたし、それ以前には特に変化は良いとか悪いとかいう意識は強くなかったのだろうと思っている。

以上のような国全体を覆う意識を変えるには大変なエネルギーが必要だということは容易に想像できるだろう。いずれも最近、イノベーションが重要になってきて見直しは行われている。しかし、抵抗勢力も多く、変化は遅々として進まない。実際に変化が起きて効果が確認できるレベルになるまでに少なくとも20年はかかるだろうというのが私の推測である。


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