2025年6月2日月曜日

日本経済の凋落が止まらない (5)産業成功のカギを製造に戻せるか?

 現在、成功のカギがイノベーションに移り、凋落している日本経済を復活させるにはどうすればよいか?

1.成功のカギを日本の強みである製造に戻す
2.日本がイノベーションに強くなる
3.成功のカギをイノベーション以外の日本の強みに移す

の3通りしかないだろう。このうち3に関しては私はアイデアを持っていないのでこのブログでは取り扱わない。今回は1.に関して考えてみる。

結論を先に言うと1.は非常に難しくほぼ不可能に近いと私は考えている。

まず、日本が世界の産業構造に働きかけるには、市場に影響力を発揮することが必要だが、日本の市場規模は世界であまり大きくなく、日本の市場を変えたとしても世界から孤立するだけだという点がある。

それに加えて世界の産業の成功のカギはこの30年ほどで製造からイノベーションに移ってきた。これは世界で最大規模の米国市場が動いた点が大きいが、イノベーションといっても、新機軸を打ち出せば良いということではなく、その新機軸が一定規模以上の利用者にとって有効であると受け入れられて、産業として成立し、それが更なる投資を呼び込んで普遍化して汎用性を持つようになる、というサイクルが回らなくてはならない。私の実感としてはこのイノベーション重視の方向性は加速していると思う。

その大きな要因は半導体技術の急速な改善である。半導体の性能と低消費電力化が急速に進むことによりプロセッサの性能が大きく向上し、多くの仕事がプロセッサで実現できるようになった。つまり付加価値がハードウェアからソフトウェアに移動して、新しいアイデアを試してみてうまくいかなければすぐ次のアイデアを試す、ということが可能になっている点が大きいと思う。

日本企業のソフトウェア開発力は低いと断定できると思う。ハードウェアの分野では、衰えたとはいえ日本製品でシェアが世界1というものはたくさんある。しかし、ソフトウェアでシェアが世界1というものは一つもないと思う(日本市場の規模が世界1のものを除いて)。日本企業でソフトウェアに強い会社というと、NTTデータ、富士通、NECなどが考えられ、最近は企業向けのDXソルーションで好景気であるが、顧客は殆どが日本企業で世界では存在感を示せていない。開発手法に関しても、要求仕様を柔軟に変えられるアジャイル開発が世界では主流になりつつあるが、アジャイルでは仕様策定者とソフトウェア開発者が一体となって作業をすることが必要なので開発を外注している日本では導入が遅れていると思う。

日本の強みであるトヨタ式生産方式はソフトウェア開発には使えない。カイゼンは同じ作業を繰り返す中で常に工夫して作業効率を上げていく方法であるが、ソフトウェアは製造ほぼノーコストでできて、必要なのは開発だけである。開発では同じ作業を繰り返すことはなく、よほどうまく工夫しないとカイゼンの手法を使うことはできない。

半導体の急速な性能向上はいつまで続くのだろうか? これまで半導体の性能向上はムーアの法則による製造工程の微細化によっていた。製造工程の微細化は限界に近付いており、微細化のペースは遅くなっている。最近は3次元チップなどの方向に動き始めているので微細化は限界に近いといえるだろう。しかし、現状で最先端の2nmプロセスの工場は建設費が非常に高価で世界でも数か所しかない。このような現状の最先端の製造技術の安定化や低価格化は今後も進むだろうから今後10年くらいは半導体の全体としての高性能化は進むと思う。

結論として少なくとも今後10年くらいはイノベーション重視の産業構造は続くだろうし、付加価値のソフトウェア化も進むと思う。

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