今回は、世界情勢の中で日本がどうするべきかを考えてみたい。
故安倍晋三元総理は日本の将来に対して明確なビジョンを持った政治家だった。その目的は、日本固有の文化を大切にし、同時に日本を世界で存在感のある国にすることである。これは「美しい国、にっぽん」という標語で端的に示されている。安倍氏は実際にその実現に向けて行動していた。国防に関しては日米同盟を基軸として安全を担保し、そのためのコストは負担する。内政に関しては細かい点がいろいろあるが、その思想は自民党の憲法草案にまとめられていると思う。自民党のホープページにあり、それほど長いものでもないので興味のある方には一読をお勧めしたい。
問題は幸福の大きな要因となる経済政策である。日本経済はバブル破裂以降、低迷を続けている。これに対する対応策として安倍氏は「アベノミクス」を打ち出した。アベノミクスは一時的な効果を上げたが、現在は失敗だったという評価が固まりつつあるように思う。私はアベノミクス自身に悪いところがあったとは思っていない。アベノミクスは金融緩和、財政出動、成長戦略を3本の矢として打ち出し、金融緩和と財政出動は行われたが、第3の矢である成長戦略がほとんど動かなかったので失敗だといわれている。私はアベノミクスの考え方に問題があったのではなく、成長戦略を実行できなかった点に問題があったのだと思っている。これをアベノミクス全体が悪かったように言うのは論点ぼかしだと思っている。
なぜ成長戦略は実行できなかったのか? 金融緩和と成長戦略は政府が主体的に動けば実行できるものであるのに対して、成長戦略は民間の問題であり、民間がその気にならなければ動かない問題だからである。民間はもともと成長したいと思っている。それなのに成長できないのは、問題があるからである。その問題点を実行主体ではない政府が見つけて改良するのは極めて難しい。端的に言うとアベノミクスのうち最も難しい成長戦略は日本政府にはできなかった、ということである。
私は安倍総理の「日本固有の文化を大切にする」という哲学と、経済成長という目標に矛盾する部分が少なからずある、というのが成長戦略がうまくいかなかった最大の理由だと思っている。そもそも、日本文化の殆どは江戸時代以降に根付いたものである。日本文化は徳川幕府、および明治以降の政府が日本を統治しやすくするために、国民に植え付けた価値観が大きく影響していると思う。これが競争原理が本質となる現代経済で日本企業を勝ちにくくしているのだと思っている。端的に言うと日本文化も現代社会に合わせて見直しをしていかないといけないのだが、この点が安倍氏に欠けていた視点だと思う。
それでは日本はどうすればよいのか? 日本独自の手法を打ち出すのは難しい。諸外国の方式を勉強し、取り入れるべきだろう。米国が成功しているので全面的にアメリカの価値観を取り入れ、アメリカ型の競争重視に社会にしていくというのは一つの方法であるが、現在の日本の価値観との違いが大きく、社会に大きな軋轢を生むだろう。日本と比較的考え方が近く、競争原理もうまく取り上げている国として北欧諸国があると思う。北欧諸国の仕組みを日本の国の仕組みとして取り入れていくことが有力な方法であると思っている。
現在の日本の政治家には安倍氏のようなビジョン(私の言葉では哲学)を持つ政治家は見当たらない。皆、目の前の問題点を解決することだけを考えているように見える。ひょっとしたら林芳正外相あたりが哲学を持っているかもしれないと期待している。
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