今回はどうすれば経済的な豊かさをもたらすことができるかについて考えてみる。経済的な豊かさは幸福感の最も大きな要因であることはおそらく間違いないだろう。
第2次世界大戦後、世界が資本主義陣営と共産主義陣営に分かれて争った時期があり、共産主義陣営は例外なく経済的に行き詰まり、ソ連のように国が分裂したところもあるし、政治的には共産党独裁政権が続く国でも経済的には殆どが資本主義の考え方を取り入れている。例外は北朝鮮やアフガニスタン、アフリカのいくつかの国のような軍事政権である。
ここでいう「資本主義」とは何か? 私は厳密な定義を考えているわけではなく、訪米や日本のような先進国での企業や個人を単位として利益を求めて経済活動をする仕組みをイメージしている。ちなみに岸田首相は「新しい資本主義」を唱えているが、彼らが考えるこれまでの資本主義は「新自由主義」で市場に任せて各自が利益を最大化しようと行動すればうまくいく、という考え方で、これに対して新しいものを検討している。これは資本主義のとらえ方としては狭すぎるし、現在世界で行われているのは新自由主義ではないと思う。
共産主義の失敗から我々が学んだことは経済発展の豊かさをもたらすものは様々な工夫によるイノベーションであり、それを活性化するには競争原理が不可欠だということである。権力者が自分のやり方を他者に強制するやり方は一時的にはうまくいくように見えても結局は新しいアイデアが出にくくなって衰退する。一方で、様々な企業を競争させて勝者には大きな経済的豊かさが得られるようにすれば、国民一人一人が活性化して全体として大きなエネルギーになり、経済が活性化する、ということだと考えて間違いないと思う。
第2次大戦後の経済発展を振り返ると、1950年から1990年までに最も成功したのは日本であり、1980年から2020年までに最も成功したのは中国である、ということに反対する人は少ないだろう。これらはイノベーションを起こして発展したというよりも、貧しさから抜け出すために、安い賃金でよく働いた労働効率の高さと、先端技術を取り込む動きがうまくマッチした結果だと私は考えている。日本が豊かになると、イノベーションの勝負になり、その分野では存在感を示せていないのが、ここ30年の日本である。
中国は共産主義国でありながら実にうまく競争原理を取り入れた。日本と同様に安い労働力で欧米の技術を取り入れつつ、競争環境を作り出して日本よりもはやい速度で経済発展を成し遂げた。私は国際標準化の場で中国のモバイルオペレータ中国移動の技術者たちとも付き合ったが、彼らは100%政府が株式を所有する企業であるにもかかわらず、官僚的ではなく、民間の技術者と付き合っていた。競争環境に適応していたと思う。しかし、その中国も曲がり角に来ている。労働人口はすでに減少に転じ、政治的摩擦から最先端技術の導入も困難になってきてる。今後の中国経済は困難な時代に入っていくと思う。
貧しくない欧米で、うまくやっているのはやはり米国だろう。米国は、ほかの先進国と比べて競争重視の社会であり、勝者には大きな報酬がもたらされる。それを求めて世界中から優秀な人物が集まっている。米国の仕組みが最もイノベーションを起こすのに適しているといえるだろう。しかし、競争には必ず勝者と敗者があり、敗者をどのように扱うのが良いか、という課題がある。この点に関しては世界各国で様々の異なる対応が出ておりまだ結論が出ていない。一般に勝者よりも敗者のほうが数は多く、敗者に不満がたまると政治的に不安定になる。これが現在先進国で見られている政治的不安定さの原因だと思う。
敗者に施しを与えるのでは十分ではない。敗者がいかに納得してその後の人生を歩めるかが重要だと思っている。
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