2025年5月30日金曜日

日本経済の凋落が止まらない (2)米国の逆襲

 前回も書いたが、日本は敗戦後の焼け野原から奇跡的に急激な復興を遂げ、1980年代には米国にとって最大の経済的脅威を与える国になった。80年代の米国は日本に対して関税をかけるなど、現在中国に対して行っているような様々な圧力をかけて日本の力を弱めようとした。その中で最も大きな影響があったのは円高である。

円高に加えて90年代に入って日本の不動産バブルがはじけたことによって日本経済は勢いを失い、そのまま現在に至っている。多くの経済人は円高と日本がバブルがはじけたことに対する失敗が日本経済を弱めた原因であると言っている。しかし、バブル処理が終わってアベノミクスで金融政策を転換しても日本は好況には転じていない。その理由は成長戦略が実行できていないからである。

私は米国経済復活の本質的な理由に米国の大きな経済政策の転換があると思っている。それは製造業を捨ててイノベーションで勝負するという考えである。当時、米国が大きな貿易赤字に陥ったのは、米国の工場の質が悪く製品の品質で日本に負けていたからである。日本を叩いたとしても韓国、中国が後に続いており、米国製造業が復活できる見通しは立たなかったのだろう。

そこで取った第1の政策が製造のアウトソースである。世界で最も適した地域で生産する、という方針を取り、日本のバブルが崩壊した後は中国での生産を増やし、中国が世界の工場と言われるようになった。その結果中国の経済力が強くなり、今、米国は中国叩きに心を砕いている。

米国自身の強みはどこに求めるか?

彼らは米国の強みは「イノベーション力」にあるとして、イノベーションを起こした企業が最も大きな利益を上げられるような政策を取った。具体的には特許を重視したプロパテント政策である。これに従って90年代以降、米国の企業はいたるところで特許訴訟を起こし、世界中の企業から嫌われた。しかし、特許制度にはかなりの合理性があり、特許を無視することはできずに、米国企業は復活した。

事業分野でいうと、この40年間イノベーションが進んだのは半導体の分野である。デジタル半導体の性能は40年で100万倍程度向上し、他の分野を圧倒している。他の分野では性能が上がったとしても10倍程度だろう。シリコンバレーは世界のイノベーションのメッカとなった。イノベーション重視の政策は米国経済を見事に復活させたと思う。

現在はイノベーションが利益の源泉となるという経済原理は世界に浸透していると思う。そして日本経済が凋落を続けているのは他の国に比べてイノベーション力が低いからだと思っている。その大きな理由はイノベーション力を生産性の向上といった狭い意味でとらえている点が大きいと思う。

現在、トランプ政権は米国の製造業を復活させようと躍起になっている。しかし、たとえ工場を米国に移したとしても、米国の工場が他の国の工場よりも効率が良くなる可能性は低いと私は思っている。また、私は製造業の米国回帰についてトランプ氏がどこまで本気なのかも疑っている。彼にとってはメキシコ国境の壁と同様に支持率を上げるための方便ではないかと思っている。

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