米国がイノベーションに向けて動き始めたころ、欧州では別の方向に向けて大きく動き出した。EU統合である。彼らは欧州経済を統合して米国と対抗できるレベルの市場規模を作り出すことを目標とし、共通通貨ユーロを導入した。
米国は合衆国であり、異なった地域がそれぞれ州として国に組み込まれるという経験を持っているが、米国建国初期でまだそれぞれの体制も完備していなかったので比較的容易に統合が進んだと考えられるが、欧州の場合にはそれぞれ独立国として確立していたので統合の議論は容易ではなく、ゆっくりと進行しており、現在でも進行中である。
統合の議論の過程で、欧州は完全には合意に至らなくても、納得して合意文書を作成し、ゆっくりとでも前に進むという多数団体の合意形成というノウハウを獲得した。このノウハウが生かされた産業分野が携帯電話である。携帯電話の初期には国別に異なった方式を採用していたが、まず欧州で統一システムGSMを確立し、それを更に世界統一システムに拡張してUMTSを作成した。携帯電話の分野では欧州勢が大きな存在感を持った。この経験を生かして様々な分野の国際標準化で欧州勢は大きな存在感をもって現在に至っている。
イノベーションと合意形成、あるいは半導体と携帯電話では産業全体の対する影響の広がり度合いが違う。市場も統一に向かってはいるがまだまだ単一国家と比べれはばらばらである。それで欧州の産業は米国ほどには強くならなかったのだと私は思っている。それに加えて英国のEU離脱が欧州統合に対して水を差した。今では英国のEU離脱は失敗であったという評価が定まっていると思う。一部のポピュリストの英国の政治家に英国民が踊らされたのがその理由だと思う。今でも反EUを唱える政治勢力が増加している国はあるが、EU離脱という話は出ていないという。
トランプ政権の誕生で米国は敵にも味方にもなり得る第3者 、という認識が欧州には広がっている。ユーラシアグループの言うG0の時代への対応を欧州は遠からず本格的に打ち出してくると私は思っている。
なお、トランプ政権の製造業米国回帰の本気度について補足しておきたい。メキシコ国境の壁建設と同様に着手はする、現にすでに着手している。しかし、うまくいかないとすぐに支持率を失わないように方向転換する、というのが私の見方である。日本製鉄のUSスチール買収についても同様の結果だったと思っている。